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Thursday, March 16, 2023
日本企業の中国市場に対する「求心力」と「遠心力」
ANBOUND

相次ぐ疫病ショックや地政学的リスクを経て、在中国の日本企業は今後、中国市場をどのようにとらえていくのだろうか、中国ビジネス?投資計画をどのように整理していくのか?ANBOUND研究者は最近、日本の研究機関との交流から、中国国内の政策当局にとって参考になる興味深い情報を入手している。

最近、日本貿易振興機構(ジェトロ)は800社以上の在中国日本企業を対象に中国市場の見通しと中国ビジネス?投資計画にかかる調査を行った。 2022年、疫病流行の影響から黒字と回答した企業は2021年72.2%から7.3%ポイント減って64.9%となった。 残りの企業のうち18.4%は売上高がバランスして収支横ばい、16.8%は赤字とされた。 景況感について9割以上の日本企業は中国ビジネスの見通しを楽観的とした。 今後1~2年の中国ビジネス計画について33.4%は「事業拡大」、60.3%「現状維持」、4.3%「事業規模縮小」と回答した。他国へのビジネスシフトはわずか2%に止まった。分野別には、医療機器関連のビジネス拡大の意向が最も強かったのが目を引いた。 医療機器関連企業の66.7%はビジネス拡大、31.6%は現状維持とし、事業縮小は僅か2.7%に止まった。

調査結果は日本企業が中国ビジネス?投資を拡大し続けると楽観的であり、日本企業にとって中国市場の魅力は明らかと示唆している。これは他の類似調査の結果と符合している。 例えば、ジェトロの別の調査結果では、2023年、日本企業の本社経営陣は中国が3番目に重要な投資先とした。調査対象の経営陣のうち26%は中国を最も重要な投資対象とし、1位の米国、2位のベトナムに次いだ。 日本?中国の関係は協力や投資において強く、日本企業の中国市場に対する「求心力」は存在している。

もっとも、楽観的な見方の背後に日本企業の対中認識に憂慮すべき変化がある。 例えば、今回の調査では、事業縮小を計画する在中国の日本企業は4.3%ながら、過去2年間の1~2%と比べて大幅に増加した。 ここ数年の中国市場の複数のショックが在中国の日本企業の景況感を多少なり低下させた可能性がある。 さらに、コロナ流行?地政学ショックを経て、サプライチェーン?産業チェーンの安全性?安定性の確保が多くの在中国の日本企業の関心事として台頭してきた。

日系企業は生産?調達?販売の3つのレベルでサプライチェーンのセキュリティ対策を強化している。 最も大きな変化は調達サイドにある。 現在、日本企業は特定の国?地域のサプライヤーに過度に依存しないよう、上流の供給源や調達先の多様化を模索している。これは中国と世界のサプライヤー間の代替の多様化と中国市場内のパートナーの再構築の双方が含まれる。販売サイドでは、日本企業は中国でのシェアを維持しつつ、海外市場の開拓を進める転換に歩み始めている。生産サイドでは、中国工場の自動化率を高め、海外生産拠点を増設している。

これら3つのトレンドから、在中国の日本企業は今後、調達から生産、販売に至るまで完全に現地化し、中国国内の独立した生産チェーンを構築すると考えられる。日本企業は海外に独立した供給?生産?販売システムを構築し、地政学的リスクを最小限に抑え、中国と非中国市場の両方のニーズに対応するとみられる。 日本企業が中国と海外のサプライチェーンを別々に構築することはANBOUND研究者が以前から指摘しており、中国からの脱却を目指す「パラレル?サプライチェーン」のアプローチの典型例といえる。 こうしたトレンドは日本の大企業の多くが採用している戦略である。この暗黙のデカップリングは中国市場から離脱するわけではなく、客観的に中国を世界市場から切り離す動きであり、そのネガティブな波及効果について中国政府は注意すべきであろう。

ANBOUND研究者の調査結果においてもうひとつ気がかりな指摘があった。日本企業は海外投資の意思決定を検討する際、その国の発展性を重要な判断材料とすることが多い。 しかし、最近のいくつかの調査では、日本企業がみる限り、中国の発展余地が低下し続け、小規模な発展途上国より低下したとされている。これは中国の経済成長の低下だけでなく、近年、中国と世界市場の疎外感の強まりに起因すると分析されている。特に、コロナ禍以降、中国は厳しいゼロコロナ政策をとり、中国市場と外国企業のコミュニケーションチャネルを遮断したため、外国企業が中国市場の地位や可能性を疑うようになった。日本企業の中には、本社経営陣が中国市場を重視するにもかかわらず、中国投資拡大を継続するのが困難とした会社がある。中国と日本本社の経営陣のコミュニケーションギャップは最近2年間で広がった。

楽観的には、近年、地政学要因から日中両政府の間に反感が生じたものの、企業レベルでは、日本企業の中国市場におけるビジネスや投資に対する関心?意欲は比較的に変わっていないといえる。しかしながら、コロナ禍以降、中国が国境を閉鎖し、コミュニケーションが混乱したため、日本企業や投資家の中国市場に対する信頼は徐々に失われつつあるとみられる。地政学リスクの高まりと相俟って、中国企業と日本企業の「遠心力」は増大し、暗黙のデカップリングのリスクは高まった。中国はコロナ禍対策?経済再興を好機と捉え、日本企業の現地チームとのコミュニケーション?連携を強め、中国経済?市場の可能性?価値を改めて示し、中国市場に対する「求心力」を回復させる必要がある。

<むすび>

日本企業の中国ビジネス?投資に対する関心と信頼の「求心力」が維持されてきた。しかしながら、コロナ禍?地政学リスクは信頼関係を徐々に脅かし、日本企業の中国からの離脱を深刻化させる「遠心力」になった。国内政策の転換と経済再興に向けて、中国は日本の経済界との結びつき?コミュニケーションを強め、中国市場の価値?可能性?開放性を示し、最終的に貴重な信頼関係を修復し、外国企業の「求心力」を再構築しなければならないであろう。

以上

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