ボストン国道16号線はニューイングランドの美しい街を数多く通り過ぎる。ホリストンという古い街もそのひとつである。その中心街の緑の芝生の上に真新しい電気トラックのリビアンがある。そのフロントウィンドウにはアメリカの伝統に沿って「FOR SALE」とカードが掲げられている。「FOR SALE」である。どうやら、この車を買った人はすぐに気が変わって昔ながらの芝生での販売により売ると決めたようである。この車は販売されており、売るのは容易でなさそうである。
ワシントンポスト紙は今年のスーパーボウル放映の瞬間に短い記事を出した。それは現在の電気トラックブームに対する痛烈な風刺であった。その記事は勃起不全薬のコマーシャルを文字ってカップルが性生活を話すように電気自動車の充電に遭遇するのと同様に「スタート、ストップ、スタート、ストップ、スタート」に耐えなければならなかったとした。この記事は「電気自動車を買うのは楽しみだが、満たされずに終わる不安があるかもしれない。あなたは早すぎる電化を気がかりに思う米国人の一人かもしれない」とした。この人々の症状は「望む瞬間までもたないかもしれない不安」にある。残念ながらこれは今も電気自動車を購入する際の基本的な悩みである。
電気自動車の主な欠点は、第一に航続距離の短さ、第二に充電時間の長さにある。電気自動車の科学者、起業家、投資家、サポーターたちは、かつて長い間、これらの問題は解決できる約束した。しかしながら、2009年3月、電気自動車テスラ?モーダルSが発売されてから14年経ったが、電気自動車にある2つの大きな欠点、充電時間の長さとバッテリー走行距離の短さは未だに完全に解決されていない。
少し意地悪にいえば、1800年にヴァルタバッテリーという電池が登場して以来、223年が経過したが、電池の基本原理は変わっていない。動作時間の短さ、充電時間の長さの2大問題は今も存在している。だからこそ、理論的?感覚的に解決に時間がかかっている2つの問題は実はまったく解決できないと懸念されているのである。
しかしながら、電池技術産業は長い歴史の中で並外れた長い待機時間を獲得した。政治家のみならず政府も自動車産業に将来の技術開発の道を選ぶ時間を与えるつもりはなさそうである。
英国政府は、2040年までにガソリン?ディーゼルエンジン車の販売を停止する計画だが、この時間軸は遅すぎると考える英国議員がいる。英国は早ければ2030年までに石油を使った自動車の販売を禁止する必要があるとされる。実際、急進的な電気自動車計画を採用しているのは英国政府だけではない。アイスランド、アイルランド、イスラエル、スロベニア、オランダは2030年までにガソリン?ディーゼル車の販売禁止する計画を立てた。欧州には2025年までにガソリン車やディーゼル車の販売禁止が計画するノルウェーがある。
こうした国にとって「電気自動車の未来で世界をリードする」のは政治目標である。それが現実的かはさておき、プロ政治家の関心事であるのは間違いない。喫緊の課題のひとつは気候変動である。政治家は気候変動と風土変動という論理的にまったく異なる2つの課題に直面し、1つにまとめて政治的に取り組むべきと考えている。多くの人々は気候変動が人類の罪であるという結論を得ている。罪に対する罰を先取りできる幸運な人たちは政治的に正しいとされる。
現在、各国政府が打ち出す急進的な産業政策が持続可能かは電気自動車セクターの今後の発展にとって重要な問題になる。電気自動車産業は真の技術や確かな市場需要に依存せず、政治家の決断に依存するロジックははっきりしている。但し、政治家の決断が信頼に足りるかは疑問符がつく。
各国政府はガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車の税収に依存している。電気自動車に対する税金は政府補助金を除いてもわずかである。もし、政府が道路を走る自動車を完全に入れ替えると望むならば、税制は抜本的に見直す必要があるものの、その準備を終えた政府は未だに見当たらない。
石油?ガス産業は多くの雇用?資本蓄積がある。油田、パイプライン、産業機器製造、エレクトロニクス、造船、ターミナル?港湾、ガソリンスタンド、土地開発、ホテル?サービス、銀行、ベンチャーキャピタル、ソフトウェア開発、消費者等と石油?ガス産業に関わる経済分野?産業領域は政治家の予想よりはるかに大きい。電気自動車の流行は工業製品の問題ではなく、産業システム?国民経済の課題になる。各国政府はその解決に対応する準備を終えているとはいえない。
世界的な風説流布は常に「3つのなし(ノー)」、「理屈なし、論理なし、現実なし」と特徴付けられる。実際、その時代の風雲児的な産業セクターは夢物語に特化し、現実には夢しかないことが少なくない。電気自動車産業セクターは今や風雲児ながら、実は「ハイパーフォーカス(超焦距)」のフェーズに入り、運が良ければ未来をぼんやりと見ることができる魔法のカメラレンズとして後処理が必要な次元に入りつつある。
すなわち、市場は現実的?客観的な需要ではなく、将来の環境に対する懸念などのバーチャルな要素で決まり始めた。従来的な考え方で事業を進める企業にとって難しい時代になっている。現実より懸念に加え、政府からの圧力もあってフォードはピックアップと商用車以外の車種の生産中止を発表し、自動車産業でT型を創業した100年の老舗は単なるトラックメーカーになった。フォード社ビルフォードCEOはフォード電気ピックアップF150の発表の席上、「フォードは今やすべてのクラシックモデルを電気自動車に転換する決意である」とせざるを得なかったのかもしれない。
現実には、フォードだけでなく、日本のトヨタ自動車は微妙で不透明な局面にある。メディアは豊田章男氏の今回の「衝撃の退任」は「敗北の正式な告白」であると報じた。豊田章男氏は「私は老人であり、限界がある」とした。トヨタは電気自動車路線で「必死の転身」を図る構えとされる。そして新しい時代、電気自動車時代の到来から佐藤恒治にバトンを渡すとされた。過去3年連続で燃料電池車の販売台数世界一であり、テスラ初期の最大出資者であったトヨタが敗北を認めたとされる。
しかし、世界の自動車産業は本当に電気自動車の世紀を迎える準備ができているのだろうか?当方は必ずしもそう思っていない。EV世紀に自動車産業がエレクトロニクス産業の補助産業部門となり、燃料車なら最低8チップ、電気自動車なら8,000チップを搭載する必要がある。電気自動車はアップル社の携帯電話のようなエレクトロニクス製品であり、燃料自動車のような機械的な工業製品ではない。電気自動車はコンピュータに車の外装を施して高速で人を乗せる。この劇的な変化は現在の自動車産業の変革である。しかし、世界の自動車産業はこの飛躍をスムーズに行えるとは思えない。
自動車製造業は将来的にベンチャー投資産業になり、ブルーカラー産業からホワイトカラー産業に変化する可能性を秘めている。自動車製造はかつて市場のニーズに応えていたが、今や資本市場のニーズに応えている。テスラは資本市場が不満を表明し、マスクは開花した。今や市場の需要はバーチャルになり、資本余剰の社会では、人々はお金を持って、客観的なニーズより消費者の比較欲求を満たすため、無の社会的刷り込みを満たすためのものが多く、デザインコンセプトを追う人は常に十分存在し、テスラの成功にそうした特性がみられる。
もちろん、重要な問題は技術である。電気自動車が時代を築けるかどうかは人工知能などを含め、バッテリー技術がカギを握り、材料技術が最大のハードルになる。リチウムイオン電池は3世代にわたってバージョンアップされるものの、そもそもEVの「航続距離不安」は変わっていない。長らく固体電池技術は有望とされ、NASAから日産まで、固体電池技術の課題を克服し、工業化?製造が可能であり、電気自動車の課題は解決したとされた。しかし、技術の歴史に詳しい人ならば、こうした「技術のブレークスルー」は道半ばと見做すだろう。
メディアや教育産業がブームの現代では、技術?知識自慢は営業マンのセールス特技とはいえず、「夢追い人」は多くの場合、様々な分野の技術開発に携わっている人たちともいえる。2017年当時、フィスカーは1分間充電で800km航続距離を実現する技術の特許を取得と主張した。同社トップは2023年までに固体電池をリチウム電池の3分の1の価格で大量生産すると宣言した。しかし、フィスカーの苦渋の結論は「90%達成したと思いきや残り10%で90%より難しいと気づく技術であり、固体電池の実用化をあきらめた」とした。
燃料エンジン車を禁止する2030年の政策期限まであと7年。世界各国は過激な環境政策を打ち出し続け、一方的に電気自動車にこだわるならば、資本?政策の両面の圧力からフォルクスワーゲン、メルセデス?ベンツ、トヨタ、フォードなど100年以上にわたって人々が信頼した商業ブランドは残らず、100年歴史を持つ世界の自動車製造業は死滅の時を迎えると懸念される。
これはセンセーショナルな結論ではなく、政府が公共政策を使って全面的に市場を支援し、仮想の市場需要を作り出し、排他的な政策を採用する中で世界の電気自動車産業は完全に硬直した成功を収める。実際、他の産業の可能性が国家政策によって排除され、電気自動車産業しか残っていない状況では、この瞬間の電気自動車産業の成功は、非技術的、非市場的、非合理的、道徳的な産業の成功として必然的で疑う余地はなくなっている。しかし、環境保護が急務ならば、自動車のエンジンの燃料をガソリンから水素におき換えて簡単?安全にゼロエミッションを実現できる。なぜ、そうしないのか?表向きの環境保護の目的ではなく、資本市場の繁栄の目的としか説明できないのではないだろうか。
世界の自動車産業の真実と結果は依然として霧の中にある。人々の焦点はかなりズレているのではないだろうか。
以 上
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